ったく先輩も人使いが荒くてさぁ。いやまあ、言ってることは道理なんだけど。それはいつの日か萩原が零した愚痴の一つだった。別に嫌いだったわけでも、いつ死なれても困らないと思ったこともない。
ぴしゃりと閉まった防火シャッターの向こう側、生きるために駆け出した背中の後ろ。
ドカンと、無慈悲に命が弾ける、音がした。
爆発直後に再度掛かってきていた幼馴染からの着信は、爆発物が発見されたフロアから一刻も早く立ち去り、避難を最優先とした都合上受け取れなかった。防火シャッターの向こう側に幼馴染を置いてきた先輩の顔を見ることができない。
一先ずの爆弾解除を終えたところで対爆防護容器と現れた二人の先輩は、呆れたような顔で喫煙を指摘し、気が緩み過ぎだと注意しながら退却を促した。
「ハイハイ」といつもの調子で返事をして、都合良くかかってきた幼馴染の電話を取った萩原は二言三言を交えると、一方的に通話を終了する。そうして怒られる前に小走りでフロアを降りようとしたその時、防火シャッターの降下する警報音が響いた。
かなり急いた足音が警報音に混ざり、床と布が擦れる音を立てながら、一人の男が床と防火シャッターの隙間を滑り抜ける。
「走れ! 萩原!!」
正しく、腹の底から出たような大声だった。この先輩がここまで声を張り上げる状況は、かなりやばい。でも閉じ切ったシャッターの向こう側には、まだ、防護服を身に着けた先輩が残っている。
変に冴えた冷静な頭がくるりと思考を巡らし、萩原の歩速を一瞬鈍らせた。直後、体を襲った強い負荷に倒れ込む。けれど咄嗟に覚悟したほどの衝撃は、なかったように思う。
誰かに、庇ってもらっている。
はたと、萩原は体を捩り男の腕を叩いた。防火シャッターでは防ぎきれなかった爆風の余波から自分を護るように覆い被さった先輩の意識は、殆どない。
「……きゅう、きゅうしゃ」
近づいてくる複数の足音を聞きながら、床に飛んだ携帯電話に手を伸ばした萩原研二はそのまま意識を手放した。
目を覚ました時、萩原が真っ先に確認したのは先輩の安否だった。心配や呆れと安堵を綯い交ぜにして、いかにも不服そうな顔をした幼馴染は顎で反対側を指し示す。首を動かして確認しようとするが、向こう側はカーテンが締め切られていた。
「……起きるのを待つだけだと」
「そ。……おはよ、陣平ちゃん」
ギロリと睨む松田に、萩原は苦笑しながら手を伸ばした。あえなく叩き落とされたその手が、先輩のものだったなら果たしてどうだっただろう。
漠然と思考を回しながら数回手の開閉を繰り返していた萩原は、不自然に揺れるカーテンに気がついた。眺めていれば、ゆらりと揺れた白い布の向こう側から幼児を抱いた女性が姿を現す。
萩原は初めて見るその女性に、心当たりがないとは言えない。
「あら、目が覚めたの。よかったわね」
萩原の視線を追った松田の答えより早く、彼女は穏やかに言葉を転がすと柔らかく微笑んだ。彼女の腕の中に納まる小さな命がむずかるように身動ぎする。母親の手が赤子の背中を撫で、それ以上の言葉もなく彼女は静かに病室を後にした。その数秒後、萩原は自分が息を止めていたことに気がつく。
喪に服していた彼女は、考えるまでもなく。
「風羽先輩の、」
ああ、という肯定の声と共に松田が頷く。萩原の表情に、影が落ちた。
彼女たちは、爆風に巻き込まれて命を落とした機動隊員の、最愛の妻子である。
チラリと、萩原は締め切られたカーテンを見た。いつでも開けて踏み入ってしまえる薄い仕切りの向こう側に、何故か足を運べない。
「……悪い、仕事抜け出して来てんだ。俺も帰るわ」
「のわりには制服に見えないけど?」
踵を返した松田に言えば、松田は不満を絵に描いたような顔で萩原を振り返った。分かりやすい態度に吹き出してしまいそうになった萩原だが、それだけ心配をかけた自覚もある。
「ご〜めんごめん、お見舞いありがと」
「俺はお前じゃなくて蝶野先輩の様子見に来たんだよ」
「そんなこと言って、俺が起きるのも待っててくれたんでしょ」
「ったり前だろ、この大馬鹿野郎!」
あわや取っ組み合いというところで、スルリと病室のドアが開いた。ドアの向こうに佇む大柄な男に萩原は目を見開く。
「班長!?」
「なんだ、元気じゃねえか」
心配して損した、とすら言いそうな声色に、萩原の胸ぐらへと伸びた松田の手が止まった。厳つい体格に爪楊枝を咥えた姿は一見、同い年には見えない。こんな、ことになるのなら。
「病院に搬送されたっつーから、もっと大事かと思ったんだが」
「あぁ……俺の方は、はなんとも」
先輩に庇ってもらったからさ。締め切られたカーテンの向こう側を視線で指し示した萩原は、はたと松田を見上げた。
「なんだよ」
普段は見下ろすその顔が、今は自分の頭より高い位置にあることを今更ながらに実感する。どうやら目覚めた時は多少なりとも動揺していたらしい。松田の方は、随分と平静を取り戻していたようであるが。
「いや? なんでもないってことにしとくわ」
それよりさ、可愛いナースさんいる? いつもの調子で尋ねる萩原に松田はガクリと肩を落とした。「お前こんな時までそんなことかよ」安堵と呆れが混ざり合う。その後で二、三、他愛無い会話を交わすと、同期の二人はあっさりと引き上げて行った。
果たして、消灯時間を超えた深夜の病棟で、萩原と同じ部屋に眠っていた男は目を覚ました。ゆっくりと唇が動く。「生きてる」と、吐き出された声はか細く掠れていた。
規則的に雫の垂れる点滴に真白な天井、白いカーテン。暗夜を描く窓枠の内側に、月の光は宿らない。
深く息を吐き、確認した枕元には銀の箱が眠っていた。それはかつてこれを愛用していた幼馴染が、遺される者に預けた私物である。男は眠るように瞼を閉じた。
これが夢でないのなら、彼の命の残骸は、在るべきところに返さなくてはならない。
昏々と、夜が更けていく。
柔らかな睡魔に襲われた蝶野は誘われるように眠りに落ち、萩原は朝日が病室に降り注ぐ時分に起床した。
のんびりとベッドから起き上がった萩話は両腕を上げて大きく伸びをする。寝ているばかりで固まっていた筋肉が僅かに悲鳴を上げた。そのままチラリと隣の病床に目を向けるが、自分を庇った男は未だ起きた気配がない。萩原は小さくため息を吐いた。
「早く起きてくださいよ、先輩」
ポツリと呟いた言葉に返答はない。萩原はベッドに仰向けに寝転ぶと一つ欠伸を零した。目立った外傷のなかった萩原の退院日は意識回復から一夜明けた今日、十一月九日と言われている。なんと、病院に運び込まれることになった爆発事件から二日も経過していた。松田の心配も後になってみれば充分に頷ける。漠然と納得した萩原はぼんやりと微睡みながら診察時間を待っていた。
──無事に退院したあとは、見舞いのために来院することだろう。
一人早々に帰り支度を整えなければならない。尤も、院内に持ち込んだものなど運び込まれた際に身に付けていた衣服くらいであるが。
「せんぱ〜い」
「……んだよ」
聞こえる予定のなかった声が聞こえたことに驚いていれば、衣擦れの音に続いてカーテンリールの擦れる音がした。途端、萩原はベッドから転がり落ちるような勢いで起き上がり言葉を詰まらせた。
昨日まで締め切られていたカーテンの向こう側で横たわる男の姿は痛々しい反面、元気そうにも見える。
「……他の奴は」
「ちゃんと避難できてたって、陣平ちゃんが」
視線を逸らして尋ねた男は萩原の返事を聞くと、煩わしそうに呼吸器を外して枕元のボタンを押し込んだ。しばらくして、パタパタと複数の足音が聞こえてくる。
医者が到着するより先に気怠げに上体を起こしたその人は徐に遺品を手に取った。素足で踏んだリノリウムの床が、ひんやりと冷たい。
駆け付けた医者と先輩の問答の最中、彼の手の中に収まる箱を見ながら萩原はベッドの端に腰掛けた。
先輩が握り締めているその箱は、爆発に巻き込まれた男が愛用していた金属製オイルライターだ。いつの日か、防爆防護服を着用する際、オイルが切れていると言い訳しながらも大人しく取り上げられていた光景が未だ新鮮に蘇る。すると萩原がぼんやりと思考を過去に飛ばしている間に問診が終わったらしい先輩は曖昧な笑みを浮かべ、しばらくは安静に、という医者の言葉で締め括られた。その後、順当に──或いはついでとして順番が回ってきた萩原は、松田の密告があったのか禁煙こそ薦められたが、異常無しということで予定通り退院の運びとなった。
面会時間を迎え、松田と共に再来訪した病院の、部屋の前。萩原はきつく歯を食い縛り拳を握った。
自らの前では毅然として感情の読み取りにくかった先輩が、嗚咽を上げて泣いていた。
俺が残っていればよかった。ハッキリとした後悔の言葉を聞き取った萩原と松田は、そこから指先一つ動かせぬまま立ち尽くした。幾つかの女性の声が耳をすり抜けていく。先輩の、謝罪の言葉が苦しい。
結局面会者の女性が退室するまで、まるでその場に足を縫い付けられたように二人の足は動かなかった。けれど、いざ二人が面会した先輩の様子は落ち着いていて、その手の中ではオイルライターが陽光を跳ね返していた。
ぴしゃりと閉まった防火シャッターの向こう側、生きるために駆け出した背中の後ろ。
ドカンと、無慈悲に命が弾ける、音がした。
爆発直後に再度掛かってきていた幼馴染からの着信は、爆発物が発見されたフロアから一刻も早く立ち去り、避難を最優先とした都合上受け取れなかった。防火シャッターの向こう側に幼馴染を置いてきた先輩の顔を見ることができない。
一先ずの爆弾解除を終えたところで対爆防護容器と現れた二人の先輩は、呆れたような顔で喫煙を指摘し、気が緩み過ぎだと注意しながら退却を促した。
「ハイハイ」といつもの調子で返事をして、都合良くかかってきた幼馴染の電話を取った萩原は二言三言を交えると、一方的に通話を終了する。そうして怒られる前に小走りでフロアを降りようとしたその時、防火シャッターの降下する警報音が響いた。
かなり急いた足音が警報音に混ざり、床と布が擦れる音を立てながら、一人の男が床と防火シャッターの隙間を滑り抜ける。
「走れ! 萩原!!」
正しく、腹の底から出たような大声だった。この先輩がここまで声を張り上げる状況は、かなりやばい。でも閉じ切ったシャッターの向こう側には、まだ、防護服を身に着けた先輩が残っている。
変に冴えた冷静な頭がくるりと思考を巡らし、萩原の歩速を一瞬鈍らせた。直後、体を襲った強い負荷に倒れ込む。けれど咄嗟に覚悟したほどの衝撃は、なかったように思う。
誰かに、庇ってもらっている。
はたと、萩原は体を捩り男の腕を叩いた。防火シャッターでは防ぎきれなかった爆風の余波から自分を護るように覆い被さった先輩の意識は、殆どない。
「……きゅう、きゅうしゃ」
近づいてくる複数の足音を聞きながら、床に飛んだ携帯電話に手を伸ばした萩原研二はそのまま意識を手放した。
目を覚ました時、萩原が真っ先に確認したのは先輩の安否だった。心配や呆れと安堵を綯い交ぜにして、いかにも不服そうな顔をした幼馴染は顎で反対側を指し示す。首を動かして確認しようとするが、向こう側はカーテンが締め切られていた。
「……起きるのを待つだけだと」
「そ。……おはよ、陣平ちゃん」
ギロリと睨む松田に、萩原は苦笑しながら手を伸ばした。あえなく叩き落とされたその手が、先輩のものだったなら果たしてどうだっただろう。
漠然と思考を回しながら数回手の開閉を繰り返していた萩原は、不自然に揺れるカーテンに気がついた。眺めていれば、ゆらりと揺れた白い布の向こう側から幼児を抱いた女性が姿を現す。
萩原は初めて見るその女性に、心当たりがないとは言えない。
「あら、目が覚めたの。よかったわね」
萩原の視線を追った松田の答えより早く、彼女は穏やかに言葉を転がすと柔らかく微笑んだ。彼女の腕の中に納まる小さな命がむずかるように身動ぎする。母親の手が赤子の背中を撫で、それ以上の言葉もなく彼女は静かに病室を後にした。その数秒後、萩原は自分が息を止めていたことに気がつく。
喪に服していた彼女は、考えるまでもなく。
「風羽先輩の、」
ああ、という肯定の声と共に松田が頷く。萩原の表情に、影が落ちた。
彼女たちは、爆風に巻き込まれて命を落とした機動隊員の、最愛の妻子である。
チラリと、萩原は締め切られたカーテンを見た。いつでも開けて踏み入ってしまえる薄い仕切りの向こう側に、何故か足を運べない。
「……悪い、仕事抜け出して来てんだ。俺も帰るわ」
「のわりには制服に見えないけど?」
踵を返した松田に言えば、松田は不満を絵に描いたような顔で萩原を振り返った。分かりやすい態度に吹き出してしまいそうになった萩原だが、それだけ心配をかけた自覚もある。
「ご〜めんごめん、お見舞いありがと」
「俺はお前じゃなくて蝶野先輩の様子見に来たんだよ」
「そんなこと言って、俺が起きるのも待っててくれたんでしょ」
「ったり前だろ、この大馬鹿野郎!」
あわや取っ組み合いというところで、スルリと病室のドアが開いた。ドアの向こうに佇む大柄な男に萩原は目を見開く。
「班長!?」
「なんだ、元気じゃねえか」
心配して損した、とすら言いそうな声色に、萩原の胸ぐらへと伸びた松田の手が止まった。厳つい体格に爪楊枝を咥えた姿は一見、同い年には見えない。こんな、ことになるのなら。
「病院に搬送されたっつーから、もっと大事かと思ったんだが」
「あぁ……俺の方は、はなんとも」
先輩に庇ってもらったからさ。締め切られたカーテンの向こう側を視線で指し示した萩原は、はたと松田を見上げた。
「なんだよ」
普段は見下ろすその顔が、今は自分の頭より高い位置にあることを今更ながらに実感する。どうやら目覚めた時は多少なりとも動揺していたらしい。松田の方は、随分と平静を取り戻していたようであるが。
「いや? なんでもないってことにしとくわ」
それよりさ、可愛いナースさんいる? いつもの調子で尋ねる萩原に松田はガクリと肩を落とした。「お前こんな時までそんなことかよ」安堵と呆れが混ざり合う。その後で二、三、他愛無い会話を交わすと、同期の二人はあっさりと引き上げて行った。
果たして、消灯時間を超えた深夜の病棟で、萩原と同じ部屋に眠っていた男は目を覚ました。ゆっくりと唇が動く。「生きてる」と、吐き出された声はか細く掠れていた。
規則的に雫の垂れる点滴に真白な天井、白いカーテン。暗夜を描く窓枠の内側に、月の光は宿らない。
深く息を吐き、確認した枕元には銀の箱が眠っていた。それはかつてこれを愛用していた幼馴染が、遺される者に預けた私物である。男は眠るように瞼を閉じた。
これが夢でないのなら、彼の命の残骸は、在るべきところに返さなくてはならない。
昏々と、夜が更けていく。
柔らかな睡魔に襲われた蝶野は誘われるように眠りに落ち、萩原は朝日が病室に降り注ぐ時分に起床した。
のんびりとベッドから起き上がった萩話は両腕を上げて大きく伸びをする。寝ているばかりで固まっていた筋肉が僅かに悲鳴を上げた。そのままチラリと隣の病床に目を向けるが、自分を庇った男は未だ起きた気配がない。萩原は小さくため息を吐いた。
「早く起きてくださいよ、先輩」
ポツリと呟いた言葉に返答はない。萩原はベッドに仰向けに寝転ぶと一つ欠伸を零した。目立った外傷のなかった萩原の退院日は意識回復から一夜明けた今日、十一月九日と言われている。なんと、病院に運び込まれることになった爆発事件から二日も経過していた。松田の心配も後になってみれば充分に頷ける。漠然と納得した萩原はぼんやりと微睡みながら診察時間を待っていた。
──無事に退院したあとは、見舞いのために来院することだろう。
一人早々に帰り支度を整えなければならない。尤も、院内に持ち込んだものなど運び込まれた際に身に付けていた衣服くらいであるが。
「せんぱ〜い」
「……んだよ」
聞こえる予定のなかった声が聞こえたことに驚いていれば、衣擦れの音に続いてカーテンリールの擦れる音がした。途端、萩原はベッドから転がり落ちるような勢いで起き上がり言葉を詰まらせた。
昨日まで締め切られていたカーテンの向こう側で横たわる男の姿は痛々しい反面、元気そうにも見える。
「……他の奴は」
「ちゃんと避難できてたって、陣平ちゃんが」
視線を逸らして尋ねた男は萩原の返事を聞くと、煩わしそうに呼吸器を外して枕元のボタンを押し込んだ。しばらくして、パタパタと複数の足音が聞こえてくる。
医者が到着するより先に気怠げに上体を起こしたその人は徐に遺品を手に取った。素足で踏んだリノリウムの床が、ひんやりと冷たい。
駆け付けた医者と先輩の問答の最中、彼の手の中に収まる箱を見ながら萩原はベッドの端に腰掛けた。
先輩が握り締めているその箱は、爆発に巻き込まれた男が愛用していた金属製オイルライターだ。いつの日か、防爆防護服を着用する際、オイルが切れていると言い訳しながらも大人しく取り上げられていた光景が未だ新鮮に蘇る。すると萩原がぼんやりと思考を過去に飛ばしている間に問診が終わったらしい先輩は曖昧な笑みを浮かべ、しばらくは安静に、という医者の言葉で締め括られた。その後、順当に──或いはついでとして順番が回ってきた萩原は、松田の密告があったのか禁煙こそ薦められたが、異常無しということで予定通り退院の運びとなった。
面会時間を迎え、松田と共に再来訪した病院の、部屋の前。萩原はきつく歯を食い縛り拳を握った。
自らの前では毅然として感情の読み取りにくかった先輩が、嗚咽を上げて泣いていた。
俺が残っていればよかった。ハッキリとした後悔の言葉を聞き取った萩原と松田は、そこから指先一つ動かせぬまま立ち尽くした。幾つかの女性の声が耳をすり抜けていく。先輩の、謝罪の言葉が苦しい。
結局面会者の女性が退室するまで、まるでその場に足を縫い付けられたように二人の足は動かなかった。けれど、いざ二人が面会した先輩の様子は落ち着いていて、その手の中ではオイルライターが陽光を跳ね返していた。